悲喜こもごも

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税法上の「収入」と「所得」は異なる!

*昨年4月に書かれたものですが,内容は今のところ不滅です。

1 はじめに

 「収入」と「所得」。この二つは同じ意味のように思えますが,税法上では全く別ものです。会社員,自営業者,年金生活者を例に,それぞれの収入,必要経費,所得の計算方法を紹介します。

 例えば,「なんらかの給付金が支給される」あるいは「なんらかの助成金が支給される」といった制度があったとします。その際に「一定の収入制限を設けます」という場合と「一定の所得制限を設けます」という場合とでは意味がまったく異なります。

 会社員にとっての「収入」とは,給与や賞与などの年間の合計です。特に給与所得者の場合,年収が,税法の「収入」にあたります。「所得」とは,年収から給与所得控除を差し引いた後の金額(この場合は給与所得)を指します。

 また,この「収入」と「所得」に該当するものは,サラリーマン(会社員),自営業者,年金生活者といった収入形態によっても異なります。以下,個別に解説します。

2 サラリーマン(会社員)の収入と所得

 会社員は税法上,「給与所得者」に分類され,パートやアルバイトも基本的にはこれに該当します。この場合の「収入」と「所得」等は,下記のとおりです。

 【収入】

 給与や賞与などの年間の合計収入です。特に,給与所得者の場合,年収が税法でいうところの収入にあたります。源泉徴収票の「支払金額」欄に書かれている金額です。

【必要経費】

 給与所得者にとっての必要経費は,給与所得控除といいます。給与所得控除の金額は正規雇用や非正規雇用,パートやアルバイトなどの就労形態に関係なく,所得税法上,年収に応じて定められています。

【所得】

 年収から給与所得控除を差し引いた後の金額(この場合は給与所得)を指します。令和2年以降では,画像の図表にあてはめ,給与等の収入金額から,給与所得控除額を差し引いて残った額が,所得(給与所得)となります。

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*参考

 平成29年から平成30年までの給与所得控除額の算定図表を掲載しておきますが,特に以下の3点が変更されています。

・給与所得控除の最低額が65万円から55万円に

・給与所得控除の限度額も220万円から195万円に(子育て世帯等を除く)

・おおむねどの年収層においても10万円減少

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3 自営業者の収入と所得

【収入】

 自営業者の場合,一般的に年商などが収入にあたります。開業医の場合,社会保険料収入や自由診療収入。飲食店経営の場合,ランチやディナーの売上。ライターなら執筆に関する売上などになります。

【必要経費】

 必要経費は収入を得るために必要な経費であり,業種や業態によって,異なります。開業医の場合は,診療所の家賃や駐車場代,看護師や事務員などの給料,医療設備の減価償却など。飲食店の場合,食材や飲料の仕入れ(正しくは売上原価),厨房器具の減価償却,店内の装飾品やコック,ウエイターやウエイトレスへの給料など。ライターなら取材費,取材対象と会うための交通費,記事のウラどりをするための参考図書の購入など。

【所得】

 上記の必要経費を収入から差し引き,残ったものが所得(この場合は事業所得)となります。

4 年金生活者の収入と所得

【収入】

 「公的年金」の額面が収入金額にあたります(民間の保険会社等で年金タイプの保険を除く)。自営業者は国民年金,会社員・公務員は厚生年金と公的年金にはいくつか種類があります。公的年金等の源泉徴収票に記載されている「支払金額」を合計したものが,その年の収入金額です。

【必要経費】

 年金生活者にとって必要経費にあたるものは「公的年金等控除額」といい,年金受給者の年齢(65歳未満か65歳以上か),および公的年金等の収入金額に応じて定めれています。

【所得】

 公的年金等の源泉徴収票に記載されている「支払金額」の合計額から,公的年金等控除額を差し引いたものが,所得です(所得の区分としては「雑所得」)。こちらも給与所得控除と同様,2020年より65歳未満の方でも,65歳以上の方でも10万円引き下げられるます(税制改正)。

*改正について,詳細については検索して下さい。

例えば,従来の税制の公的年金等控除額の最低額は

・65歳未満……70万円   ・65歳以上……120万円   であったものが

・65歳未満……60万円   ・65歳以上……110万円

と10万円引き下げられています。

 また,公的年金等控除については所得が上がれば上がるほど,逓減される改正内容となっています。

5 まとめ

 会社員(給与所得),自営業者(事業所得),年金生活者(雑所得)の収入と所得を紹介しました。なお,所得区分はこの三つを含め,10種類あります。収入がどの所得区分に属するかで,収入を形成するものと必要経費を形成するものが変わることに注意しましょう。

 どのような場合でも,≪所得とは収入から必要経費を差し引いたもの≫です。基本的な計算方法は以下のとおりです。

≪収入-必要経費=所得≫

 大切なことは税額の計算をする場合に,まず所得の区分を間違えないこと,次に収入を構成するものや必要経費を構成するものを正しく理解しましょう。所得を正しく計算することが所得税の出発点です。

*補足

 医師の場合,開業医と大学病院などで働く勤務医がいます。税法上,前者は事業所得,後者は給与所得となるので税金の計算の基礎となる所得の計算がまったく異なります。

 また,「年収が103万円までだと税金がかからない」といわれています。これは,収入から必要経費(給与所得控除)を差し引いたものが所得である考えると,その仕組みが理解できるでしょう。

 この「103万円」とは,「収入-必要経費=所得」の「収入」です(給与所得控除額は最低で55万円と法定)。

算式に数値をあてはめると

103万円(収入)-55万円(必要経費)=48万円(所得)

となります。

 ところで,所得控除は15種類ありますが,そのうち無条件で与えられるのが48万円の基礎控除です。よって,所得が48万円以下であれば,基礎控除48万円が差し引かれた結果,課税所得が0円となるため,税金がかからないというわけです。

 従来,給与所得控除の最低額は65万円だったので上記算式は「103万円(収入)-65万円(必要経費)=38万円(所得)」でしたが,数値が置き換わっています。

 改正後は「103万円(収入)-55万円(必要経費)=48万円(所得)」となり,従来の合計所得金額38万円以下であれば適用対象から外れていたものが,令和2年より合計所得金額48万円以下に引き上げられたので,引き続き控除対象配偶者や控除対象扶養親族になります。

お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>