悲喜こもごも

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医療費控除で大損しがちな「3つの落とし穴」と,国税庁申告サイトの“罠”

 以下は,ファイナンシャルプランナー〈CFP〉,生活設計塾クルー取締役 深田晶恵氏による記事のほぼほぼコピペです。

 

 昨年,『医療費控除で知らないと大損する「3つの極意」,国税庁作のエクセルに罠?』と題した解説記事を書いて,大きな反響があった。今年はその「国税庁作のエクセルの罠」が直っていて喜んでいたのだが,国税庁の申告サイトにまだ「罠」が残されていた。国税庁に悪気はないはずだが,気付かない人が大損する可能性が高いのは確かだ。医療費控除の「三つの落とし穴」と併せて解説したい。

  •  医療費控除の仕組みを知らずに 申告すると大損するかも  

 確定申告シーズンが始まった。受付は2月16日に開始するが,税金が戻ってくる還付申告は1月4日にすでにスタートしている。今回のテーマである「医療費控除」を申告予定の人は,混雑する前に還付申告を済ませてしまおう。

 昨年2月に当コラムで『医療費控除で知らないと大損する「3つの極意」,国税庁作のエクセルに罠?』と題して書いた記事は,多くの人に読まれた。読者のみなさんは,タイトルの「国税庁作のエクセルに罠?」が気になったのだろう。

 国税庁のサイト内にある医療費控除明細書作成のエクセルの「罠」がどういうものだったのかは後述するが,今年,計算シートは修正され,「罠」は解消されていた。

 今年度版は,使い勝手の良いものになっている!当局のどなたかが記事を読み,直してくれただろうか。こうした変化はとてもうれしいことなので,修正してくれた人に感謝したい。    

 ところが,国税庁の医療費控除の申告ページには,まだ「罠」が残っていた。「罠」という言葉は,言い過ぎかもしれない。実際のところ,国税庁は医療費控除の申告をする国民に「罠」を仕掛けているつもりはなく,悪気もないはず。単に配慮が足りていないだけだと思う。  

 しかしながら,これから解説する重要ルールを知らずに国税庁の申告ページで医療費控除をすると,大損する可能性が高いのは確かだ。医療費控除をする上で絶対知っておきたい三つの重要ルールと,残された「罠」を解説しよう。

  •  多くの人が間違って覚えている 医療費控除の仕組み  まず,医療費控除の仕組みを見てみる。  

 「控除」とは,所得から差し引く金額で,この部分には税金がかからない。つまり「非課税の枠」と考えていい。控除額が多いほど,還付される税金は多くなる。  

 医療費控除を「1年間で支払った医療費の総額が足切り額の10万円を超えると,超えた分が医療費控除」と覚えている人が多いのだが,それは間違い。  

 健康保険の高額療養費の払戻金や民間医療保険などを受け取ったら,医療費の「補てん」として支払った医療費から差し引かないといけないのである。これは,医療費控除の根本的な考え方なので覚えておこう。

◆重要ルール1 「補てんされる金額」は受け取ったお金の全額ではない! 

 このルールは,本当に重要だ。補てんとは,不足を補うこと。「収入」ではない。つまり,補てんされる金額とは,「支払った医療費が上限」となるのだ。保険の給付金の全額ではないことが一つ目の重要ルールである。

 医療費控除の申告の際には,「医療費控除の明細書(内訳書)」を添付する。「医療を受けた人」「病院・薬局などの支払先」ごとに行を変えて記入する仕組みを覚えておこう。  行ごとに「支払った医療費」,補てんする金額があれば,その行に医療費の額を上限に記入する。これを絶対に忘れないようにしよう。医療費控除の明細書を見ておけば間違いが減る。

  •  事例で分かる医療費控除 明細書作成で間違えると損する理由

 ケースで見てみてみよう。

 鈴木一郎さん:歯の矯正治療で50万円を支出。補てんされる給付金等はなし

 妻の貴子さん:乳がんの手術を受け,1週間の入院。医療費支出は10万円(高額療養費適用後),保険会社から入院給付金と手術給付金を合わせて30万円受け取った。  

 まず,一郎さんと貴子さんの明細は2行に分ける。貴子さんの行の「補てんされる金額」を間違えて30万円と記入すると落とし穴に落ちる。  

 なぜ落とし穴なのかというと,貴子さんの補てんされる金額を30万円と書くと,すべての合計額を出すときに,医療費を超える20万円(30万円-10万円)が一郎さんの行の医療費支出50万円から差し引かれてしまうからだ。  

 ケースの例だと,一郎さんの歯科矯正治療の50万円は保険から補てんされる金額はゼロなのに,貴子さんの「補てんされる金額」の上限を超える20万円が一郎さんの50万円の支出から引かれてしまい,控除額が減ってしまう。  

【ルール1を踏まえた正しい明細書作成】

・1行目:一郎さん歯科矯正治療の支出は50万円,補てんされる金額はゼロ

・2行目:貴子さんの乳がんの医療費支出は10万円(高額療養費適用後),医療保険から30万円の給付金でも補てんされる金額は10万円と書く

・控除額の計算:医療費合計額60万円-補てんされる金額10万円-足切り額10万円=一郎さんの医療費控除額は40万円  

【ルール1を知らずに明細書を間違えて作成】

・2行目:補てんされる金額を受け取った給付金全額の30万円と間違えて記入

・控除額の計算:医療費合計額60万円-補てんされる金額30万円-足切り額10万円=一郎さんの医療費控除額は20万円  

 正しい記入例と間違えた記入例の医療費控除額の差は20万円。仮に一郎さんの年収が800万円とすると,節税メリットの損は6万円にもなるのだ。

  •  国税庁「確定申告作成コーナー」に 残された“罠”とは?  

 医療費控除を受ける際,確定申告書に明細書を添付するのが原則だ。明細書は国税庁のサイトで作成できるが,その方法は複数ある。  

(1)明細書のPDFをダウンロードし,プリントしたものに手書きで記入

(2)明細書作成用の「Re1(4)」というファイル名のエクセルをダウンロードしてシートに入力する(計算式が入っている)

(3)医療費集計フォームVer.3.1のエクセルをダウンロードして入力する(計算式は入っていない)

(4)「国税庁確定申告作成コーナー」を使ってネット上で申告書と明細書を作成  

 昨年の記事『医療費控除で知らないと大損する「3つの極意」,国税庁作のエクセルに罠?』の「罠」は,上記(2)のエクセルの落とし穴のことだ。  

 セルに計算式が入っており,支払った医療費を入力していくと下の合計欄に医療費の合計額が自動で計算される。そして,最終的な医療費控除額も自動的に算出されるため,電卓不要で便利だ。  

 しかし,「(5)補てんされる金額」の欄に重要ルール1の「補てんされる金額は支払った医療費が上限」となるような関数(MIN関数)が入っていなかった。補てんされる金額を医療費より多く入力してもエラーがでない。  

 「重要ルール1『補てん金額」は受け取ったお金の全額ではない!」を知った上でエクセルシートに入力しないと,正しい控除は受けられずに大損してしまうシートであった。  

 それを今年,国税庁のどなたかが修正してくれて,補てんされる金額は支払った医療費が上限になるように改善された。  

 良かった!と思いつつ,念のため(4)の「国税庁確定申告作成コーナー」で明細書作成を試みたところ,こちらの落とし穴は改善されていないことを発見。「補てんされる金額」を支払った医療費の額を超える金額で入力してもエラーがでない。

 もちろん,補てんされる金額の入力欄には「支払った医療費のうち生命保険や社会保険などで補てんされる金額」と注意書きはあるが,そもそもの理屈を理解していないと,受け取った給付金の全額を入力してしまうだろう。  

 繰り返すが,国税庁は「罠」を仕掛けるつもりではなかったと思う。しかし,一般市民は「補てんする金額」の「補てん」の意味をじっくり考えているわけではない。間違いが起きないように,「補てんされる金額」は「支払った医療費が上限」となるように設定するべきだろう。  

 なので,私のお勧めの明細書作成は,改善されたエクセルに入力する2の方法だ。こちらにアクセスし,エクセルシートを入手しよう。 >>令和3年分確定申告特集 リンク先から「医療費控除の明細書様式『Excel版』はこちら【Excel/589KB】」をクリック

◆重要ルール2 「がん診断給付金」は「補てん金額」に含めない!  

 さらに落とし穴となるのが,「がん診断給付金」の扱いだ。医療保険の入院給付金や手術給付金は「補てんされる金額」として,支払った医療費から差し引く。ただし,「がん診断給付金」は,差し引かなくてもいいことを知っておこう。  

 がん診断給付金は「がんの確定診断がされたことにより支払われる」ものであり,入院や手術の医療費等の補てんとして給付されるものではない。これは,複数の税務署に確認して得た回答なので,間違っていない。  

 仮に先のケースの貴子さんが,がん保険に入っていて「がん診断給付金」を100万円受け取ったとする。この100万円を間違えて「補てんされる金額」に記入すると,合計欄で一郎さんの歯の矯正治療費の50万円からも差し引かれてしまう。すると医療費控除額はゼロとなり,控除を受けることができない。一郎さんの所得税・住民税に対する節税メリットの約12万円はゼロとなり,大損することになる。

 ちなみに,悪性がん,急性心筋梗塞脳卒中で一定要件を満たしたときに一時金で支払われる「3大疾病保険金」や「特定疾病保険金」も同じ扱いとなるため,医療費から差し引かなくてもいいことになっている。

 3大疾病保険金,特定疾病保険金は,300万~500万円などの契約が多い。間違えて補てんされる金額に含めると医療費控除はまったく受けられなくなるので要注意である。

◆重要ルール3 公的介護保険の自己負担額も医療費控除の対象になる!  

 公的介護保険の要介護認定を受けている家族がいたら,自己負担額も本人または家族の医療費控除の対象となる。この重要ルールを私は今年初めて知った。ファイナンシャルプランナーなのに恥ずかしいです…。  

 医療費控除の明細書の「(3)医療費の区分」欄に,「介護保険サービス」とちゃんと記載があるが,これまで目に入っていなかった。義両親が昨年から介護保険を利用するようになり,介護サービス事業者の領収書に「医療費控除対象額」との記載を見て,「医療費控除の対象になるんだ!」と思った次第である。  

 例えば,同居の両親が大きな病気を持っていないけれど,介護費用は結構な負担というケースはよくある。医療費が10万円を超えるほどかかっていないと,医療費控除はわが家には関係ないと思ってしまうかもしれない。  

 実は,介護費用で医療費控除の申告ができることも,ぜひ知ってもらいたいことの一つだ。

お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>