悲喜こもごも

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60歳以降も働く人が受け取れる“手当”とは?

 以下は,AERA dot.提供記事(週刊朝日 2022年12月30日号)のほぼほぼコピペです。

 いつもよりゆっくり過ごす時間が多い年末年始は,将来について話し合う絶好の機会だ。知らないと損する定年前後のお金の手続きのこと,生活や働き方のこと,夫婦でじっくり考えてみませんか。定年を迎えた人,迎える人はもちろん,40,50代もこの機会にぜひ。

 長年勤めた会社を定年退職するとき,「退職一時金」に期待する人も多いだろう。

 自分たちへのご褒美として夫婦で海外旅行に出かけたり,高額な買い物をしたりするのはいいが,それ以前に,「『退職金の受け取り方』を間違えると,老後の資産形成に影響を与えます」と,注意を促すのは,税理士でファイナンシャルプランナーの西原憲一さん。

「退職金は一時金,分割,一時金と分割の併用と,受け取り方は会社によっていくつかの選択肢が設けられていますが,60歳の定年退職時に一括で受け取るケースがほとんどです。また,退職金には『退職一時金』と三つの『企業年金』があり,ご自身が今までどの企業年金に加入していたのか,受け取る金額と受け取れる期間を知らないと,税金の負担が多くなり,資産が目減りしてしまいます」(西原さん)

 企業年金制度には「確定給付企業年金」「企業型確定拠出年金」「厚生年金基金」の三つがある。

 まず,定年前にやることは,企業年金を含めた退職金をいつ,どれだけ受け取るのか。これを必ず確認しよう。

 もう一つ重要なことがある。退職前に会社の総務などから「退職所得の受給に関する申告書」を受け取り,必要事項を記入して,会社に提出する。この作業を怠るととんでもないことになる。

「『退職所得の受給に関する申告書』を会社に提出すると,退職一時金は退職所得控除の対象になり,控除の計算をした上で,金融機関の口座に振り込まれます。まれに,この書類を提出しない人がいます。そうすると退職一時金から一律20.42%の所得税等が引かれた後の金額で振り込まれてしまいますので必ず手続きをしましょう」(同)

■60歳以上働く人 受け取れる手当

 確定申告で手続きをすれば,支払った所得税等は戻ってくるが手間がかかる。

 その「退職所得控除」は勤続年数によって控除額が異なり,退職一時金と企業年金を一括で受け取ると,退職所得控除の額を超えてしまうケースがあるので注意が必要だ。

 例えば,勤続年数が38年のヤスヒコさん(仮名・59歳)は,退職一時金2千万円,650万円の企業型確定拠出年金を受け取れることがわかった。

 下記の計算式にあてはめると,退職所得控除の額は2060万円。退職一時金と確定拠出年金を一括で受け取ると,課税対象額は295万円,所得税額は19万7500円にもなる計算だ。

 ヤスヒコさんは,「それならば60歳で退職一時金を受け取って,翌年に確定拠出年金を受け取ればいい」と思っていたが,そうはいかないことがわかった。

「退職所得控除は60歳のときに退職一時金を受け取ったら,『4年超間隔をあける』というルールがありますので,翌年は適用されません。次に退職所得控除が使えるのはヤスヒコさんが65歳のときになります」(西原さん)

 60歳以降,再雇用制度を利用して同じ会社で働くことにしたが,給料が60歳前と比べて減額することがわかったので,確定拠出年金は「年金形式」で受け取り,生活費の足りない分を補おうと考えた。60歳から64歳までの人は,年60万円まで,65歳以上の人は110万円まで,「公的年金等控除額」を使えば税金がかからない。

 月5万円で設定すると,公的年金等控除額の範囲内で収まる計算になった。

確定拠出年金は,原則60歳以降75歳までの間で受け取りを開始することが可能です。ここでも退職所得控除に関するルールがあり,確定拠出年金を一括で受け取ろうとするときは注意が必要です。退職一時金を60歳で受け取ったら確定拠出年金を一括で受け取るまで14年間空けなければなりません。それは現実的ではないので,年金形式で受け取ったほうがいいでしょう」(同)

 また,ヤスヒコさんのように60歳以降,働き続ける人は「雇用保険」から受け取れる手当があるので,忘れないようにしたい。

 60歳以降,再就職した人の給料が60歳時点の75%未満に下がった場合,「高年齢雇用継続基本給付」がもらえるのだが,「60歳時点の給与の上限が47万8500円」「月額の賃金が支給限度額を超えると支給されない」というルールがあり,「75%未満」という条件をクリアしても給付の対象にならないケースがある。

 いずれにしても自分で計算しないで,ハローワークで相談してみよう。

 これらの退職一時金,企業年金の受け取る時期やもらい方の手続きを含めて,たいていの会社では50代の社員を対象に「リタイアメントセミナー」が開催され,自分で情報収集をしなくても会社が教えてくれるのでひと安心。

■妻と夫では違う知りたい情報

 都内に住むタロウさん(仮名・58歳)は,「大事な話なんだからしっかり聞いてきてね」と,妻に送り出されて会社主催のセミナーに参加したのはいいが,帰宅後,妻からの質問に答えられず,「何を聞いてきたの!」と,こっぴどく叱られた経験がある。

「妻と夫で知りたい情報は違います。夫がセミナーで聞いたことを妻に説明するのは至難の業なので,そこで齟齬(そご)が生じると定年後,溝が埋められないまま過ごすことになってしまいます」

 そうアドバイスするのは,『お金・仕事・生活…知らないとこわい 定年後夫婦のリアル』(日本実業出版社)の共著者で,確定拠出年金アナリストの大江加代さん。

 タロウさんが退職時に「全部でいくら資産があるのか」妻に説明できないで,しどろもどろになったのはワケがある。

 社内預金制度や積み立て制度,財形貯蓄など,妻に内緒で蓄財してきた資産を“へそくり”にして「老後の自分だけのお小遣いに」と計画していたからだ。

 しかし,「これらも大事な老後資金の一部なので,嫌でも白日のもとにさらさなければなりません」と言うのは,夫で経済コラムニストの大江英樹さん。英樹さんが定年退職したとき,退職一時金を除く預貯金は150万円しかなかったという。

「お金に関しては大丈夫だから」と言う英樹さんに対して,加代さんは「夫が言うほど大丈夫とは思えず,老後の家計をシミュレーションした」と言う。

「まず定年後,1年間の生活費を計算しました。支出は家計簿をつけていたので,夫婦で毎月約22万円で生活ができる道筋がつけられました。次に私が受け取る年金を計算して,夫に先立たれた後,私がひとりになったときの生活費を試算しました」(加代さん)

 夫婦で生活していたときの半分にはならず,月約17万円,年間200万円は確保したいと考えた。

 妻がひとりになっても生活が成り立つのか,というように「お金にまつわる不安」を書き出す。

 その「不安」を夫婦で共有しながら,具体的に金額を出すことで不安を解消していくプロセスがとても大切という。

 お金の不安を話し合うと,年金の繰り下げなどの受け取り方や,65歳以降の働き方も決まってくる。このように,定年前後のお金や仕事,生活に関して,くれぐれも夫が一方的に決めないようにしたい。

「私(70歳)の世代は,男は一家の大黒柱として稼がなければならないという思い込み,『大黒柱バイアス』にとらわれている人が多く,家庭やご近所デビューなど,生活圏が会社から自宅に移るとき,さまざまな弊害を起こします。この『大黒柱バイアス』を早く捨てて,家庭内では妻を上司だと思って従うことです(笑)」(英樹さん)

 例えば,再雇用,再就職で働く際も,ついエラそうな態度で人と接してしまう人もいるだろうが,マウントを取ろうとすると相手に嫌われる。

「現役時代は大した仕事はしてこなかったと自分に言い聞かせるようにしてきました。好きなこと,やりたいことにチャレンジしてそれを仕事にすればいいと思います。無理に何十万円も稼ごうと気張らずに月3万~5万円ぐらいでいいと思えば,いくらでも仕事は見つかります」(同)

 また最近は「プロボノ」といって,自分のスキルを登録して,休日や夜の時間を使って,地方企業やボランティア団体にノウハウを提供する「マッチングサービス」もある。

 個人事業主や起業はハードルが高いと思う人は,月に数日からプロボノに参加してスキルの棚卸しから始めてみるのもいい。

「定年後に起業して,仕事の依頼が来るようになったのは,会社を辞めてから知り合った人たちのツテが大きかったです」

と英樹さんが言うように,定年後,個人事業主や起業などで働きたいと思う人は,現役時代から社外の友人をたくさん作っておくことを勧める。

■感謝の気持ちを口に出す習慣を

 一方で,今までずっと働いてきたのだから,定年後は家でのんびり過ごしたいと「三食昼寝付き」の夫もいるだろう。

 ヤスシさん(仮名・65歳)もそのひとり。やっと会社員生活から解放されたのはいいが,これといった趣味がない。

「コロナにかかりたくないから外出は自粛する」と言い訳をしながら,居間で新聞を読みながらテレビを見る日が続くうちに,妻から「お小遣いあげるから遊びに行っておいでよ」と言われるようになってしまった。

「夫の三度の食事を作るのは面倒という妻のシグナルです。家にいるのであれば,もっと家の仕事を手伝いなさいと妻は心の中でそう思っているのです」(加代さん)

 夫に家事を手伝ってもらうと,かえって手間がかかる。「自分の城(台所)」を汚されたくないと思う妻もいるだろうが,妻が長期不在にしても,夫がひとりで留守番できるようにしておいたほうがラクという。

「妻が突然,寝込んでしまったときに,それまで夫が一切家事をやっていなかったら,休んでいられない事態に陥ってしまいます。1週間ぐらい妻が家を空けても,夫ひとりで自炊,洗濯,掃除,ゴミ出しぐらいはできるようにしてもらいたい」(同)

 その際,洗濯物の畳み方や食器の後片付けなどが気に入らなかったとしても,「妻は我慢して夫をほめてほしい」と加代さんは言う。

「自分のやり方と違うなと思っても,目をつぶって『手伝ってくれてありがとうね』と一言があると,亭主は喜んで,次から率先してやるようになります(笑)」(英樹さん)

 そして定年後は,夫婦2人で過ごす時間が長くなる。会話不足を補う魔法の言葉が「ありがとう」だという。夫も妻も手伝ってくれたら「ありがとう」と,口に出して言ってみよう。

「そんなこと恥ずかしくて言えない」という人は,コンビニやスーパーの店員さんにも,身の回りでのささいな出来事から,感謝の気持ちを口に出す習慣をつけておくと,家庭内だけでなく,どこでも「ありがとう」が言えるようになり,対人関係も良好に保てるようになる。第二の人生,好循環のサイクルを作るためにも,内面を変えることからスタートしよう。(ライター・村田くみ)

■退職所得控除額の計算式

勤続年数:20年以下の人/20年超の人

退職所得控除額:40万円×勤続年数/40万円×20年+70万円×(勤続年数-20年)

勤続年数の端数は切り上げ。最低金額80万円

(例)勤続38年の人のケース

800万円+70万円×(38年-20年)=2060万円まで税金がかからない

(例)60歳で退職一時金(2000万円)と確定拠出年金(650万円)を一括でもらう場合

(2650万円-2060万円)×1/2=295万円(課税対象額)

295万円×10%-9万7500円=19万7500円(所得税額)

復興特別所得税を考慮しない

 

お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>