民法改正 意思と法律行為(1) 意思表示の1
改正のポイント
1 意思能力
自身の法律行為の結果(メリットやデメリット,リスク等)を判断できる精神的能力。
その能力が欠如している状態での法律行為は無効であることを明文化。
Q契約行為についての影響は?
A本人の意思を正確に確認することが求められる。
【改正前】
認知症などの理由で,契約内容を理解しないままに締結した売買契約は,後で契約の無効を主張して代金の返還請求ができる(判例による)。
【改正後】
意思能力をしない者による法律行為は無効(明文化,3条の2)。しかし,意思能力の定義はなく,解釈による。
未成年者は制限行為能力者として一定の保護を受けるので,意思能力を主張する場面は限られます。
一方,意思能力のある成人は,自らの法律行為に責任を負うことになります。著しく判断力が衰えた高齢者などが契約を結んだ場合には,意思無能力を主張して無効とする必要があります。超高齢社会が進む今後は,そのような場面が増加するでしょう。
売買契約における売主は,相手方の意思能力を正確に把握しなければなりません。
2 意思表示
意思能力を持つ人の意思表示であっても,その有効性が問題になるケースが多々。特に,錯誤(誤り,間違い)による意思表示を大改正。
Q新駅ができるとのうわさ聞いて,その近辺の土地を購入したが,その事実が
なかった。
キャンセルできないか?
A契約をする基礎事情を売主に表示していた場合には,取消しできる可能性がある。
【改正前】
誤解に基づく意思表示(錯誤)は無効でしたが,条文は「表示の錯誤」に適用され,Qのような「動機の錯誤」には,判例の要件を充足する必要がありました。
【改正後】
「表示の錯誤」に加え,「動機の錯誤」も明文化しました(95条1項2号,「基礎事情の錯誤」「事実の錯誤」)。併せて,錯誤(表示・基礎事情とも)による意思表示の効果については,①重要な錯誤(95条1項)であり,②本人に重大な過失(重過失)がなければ,「無効」ではなく,取り消すことができます。また,基礎事情の錯誤による取消しを主張する場合には,③相手方にその基礎事情を表示する必要があります(95条2項)。
なお,本人に重過失があった場合でも,a相手方に悪意や重過失あった場合,b相手方も本人と同様に錯誤に陥っていた(共通錯誤)場合には,取消しの主張が可能です(95条3項)。
したがって,買主が売主に対し「新駅ができる」という基礎事情を示して,土地購入の意思表示をした場合,その基礎事情に錯誤があれば契約の取消しを主張できます。ただし,表示方法等の法律的有効・無効は今後の判例の蓄積が必要でしょう。
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