※女性セブン2021年7月29日・8月5日号の弁護士竹下正己氏の記事のコピペです。
< >部は私が加筆したものです。
【相談】
夫婦で小さな喫茶店を営んでいますが,アルバイトのAさんとの金銭トラブルで困っています。Aさんとは3年ほどのつきあいですが,シングルマザーで大変だと聞いていたため,家の引っ越し代や育児にかかるお金が足りないときに数万円ずつ貸し,総額25万円ほどになりました。
Aさんがアルバイトをやめることになったので,「借金を返してほしい」と言ったところ,「お金は借りていない」の一点張り。借用書は作っていなかったのですが,お金を返してもらうことはできますか。三重県・中沢香苗(60才・自営業)
【回答】
あなたが店員のAさんに貸したお金を返すように請求するには,まず2人の間で金銭の授受があったことがすべてのスタートになります。この点で問題がなければ,Aさんが返済義務を否定する根拠を証明する必要が出てきます。
しかし,Aさんがお金を受け取ったことを否定する以上,あなたは金銭交付の立証なくしては返金請求できません。借用書があれば,通常はお金を借りたことと返す時期が書かれているので,Aさんが返済済みを証明できない限り,返金の請求は認められます。<借用書は,このように争いが生じた場合に,重要な証拠となります。面倒でも作成しましょう>
約定の返済日(定めがなければ貸付日)が何年も前だと,時効期間(昨年4月1日以前<3月31日まで>の貸金の場合は10年間,<4月1日>以降であれば5年間)が経過していれば時効になりますが,ここ3年ほどのことですからその心配はありません。
借用書がなくて受取書や振込受付書などお金の授受を証明する証拠があった場合でも,Aさんは,弁済<=返済>や時効<期間が経過したので債権は消滅したと>の反論をするほか,お金はもらった<=贈与>と反論する可能性もあります。とはいえ,あげたお金の受取書を取るのも不自然な気がしますし,返さなくてもよいという特別の事情がない限り,認められないでしょう。
そもそも金銭授受の証明は文書がないと困難です。例えば立ち会った人がいたとしても,その人が別の店員であなたの意思に反することが難しい立場の場合にはその証言の証明力が弱まります。また,なぜ借用書や受取書がないのかの説明も必要です。もしAさんが徹底して金銭の受け取りを否定すると,それを覆して現金交付の事実を証明することはできないと思います。
もっとも,受け取りを否定しているくらいですから,仮に証明できても,実際に取り立てることは大変だと思います。お金の取り立ては裁判を起こして裁判所から判決をもらって,さらに強制執行を申し立て,Aさんの財産を売却してもらい,その代金から回収することになりますが,財産を把握できないと判決は絵にかいた餅と同じで実効性はありません。めぼしい財産が見当たらないときは,手間暇かけて裁判手続きをするのはかえって大損という結果にもなります。<そのような場合のために「強制執行認諾文言がある公正証書を作成することができます。なお,裁判所に強制執行の申立てをする前に,公証役場での手続が必要で,詳細は省略します>
親しい人にお金を貸すときにはもらいづらいかもしれませんが,借用書を書かせるべきです。そうすれば借りた方も返済義務を意識します。借用書をもらわず貸す以上は,返してもらわなくてもよいというくらいの気持ちでないと,後で悔しい思いをすることになります。
<もし相手方が拒否した場合には,貸さないか,あげるかの決断をしましょう>
<借用書と金銭消費貸借契約書の違い>
前者:貸主と借主が1通作成し,前者が保管(借主が貸主に差し入れる形式)
後者:貸主と借主が2通作成し,両者が1通ずつ保管
<金銭消費貸借契約書作成の留意点(借用書に共通)>
①借主が金銭を受領した旨
②貸し借りした金額
③①②の年月日
④返済期日
⑤利息・遅延損害金の定め
⑥期限の利益の喪失の定め
⑦担保設定(人的:保証人・連帯保証人,物的:抵当権設定等)
お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>