「おひとりさま」が亡くなると親族に大きな負担も!事後処理に備える「死後事務委任契約」とは?
以下は,マネーポストWEB提供記事(取材・文/鈴木靖子)のほぼほぼコピペです。
終活ですべきことはさまざまだ。なかでも“おひとりさま”にとって重要なのは「自分ではできないこと」を“誰か”に頼んでおくことだ。
生前であれば,体が動かなくなったときの財産の管理や,判断能力がなくなったときのサポートを依頼する必要があるし,亡くなった後は,生きてきたすべての契約をリセットしなくてはならない。しかし,その備えができていなかったら?
そこで,相続・終活コンサルタントで相続専門行政書士の明石久美さんに,おひとりさまの死後に起こりがちなトラブル事例と合わせて,準備しておきたい死後の支援について教えてもらった。
おひとりさまの最期
「おひとりさま」が最期を迎えた場合,どのようなトラブルが考えられるか。想定される具体的なケースから見ていこう。
【ケース1】孤独死したマンションから…
分譲マンションで一人暮らしをしていた男性が孤独死。かなりの時間が経過して,発見された。警察が入り,遺体は運ばれたのだが,溶け出した体液が下の部屋の天井の染みに。害虫被害もあり階下の住人はなんとか相続人と話がしたいと管理人に交渉するが,個人情報を理由に教えてくれず,途方に暮れている。
「階下の住人の方の気持ちを想像すると,『死んだあとのことなんてどうでもいい』とは簡単には言えないですよね。弁護士を立てて,何かしらの請求をすることになるのでしょうが,相続人にしてみれば,突然,遠い親族の死後のゴタゴタに巻き込まれたと感じるでしょう。生前も含め,何も備えないというのは,こういったトラブルも招くということをイメージしてほしいです」(明石さん,以下同)
【ケース2】電気を止めたくても,契約先がわからない
おひとりさまが亡くなり,きょうだいが相続。分譲マンションは売却する方向で話が決まり,遺品整理も無事に終わり,水道とガス,電気を止めようとしたとき……。水道とガスは手間なく契約解除できたが,電気会社がどこかがわからない。部屋に「使用料のお知らせ」はなく,通帳に引き落としの記録もない。「どこだ?」と探していたがわからず,携帯電話を解約した際にようやく通信会社の新電力に契約していたことが判明。電気料金はキャリア決済で携帯電話料金と一緒に引き落とされていたため,一切の形跡がなかったのだ。
「電気や携帯電話の解約だけでなく,人が亡くなったときに行うべき手続きはたくさんあり,しかも最近ではデジタル上での契約が多く,わかりにくくなっています。たとえば,クレジット決済で自動更新されているサブスクなど,あらかじめ情報を残しておいてもらわないとわかりません。情報を整理して残すこと,そして,誰に事務手続きをお願いするのかは考えておく必要があります」
【ケース3】最期の世話をしてくれた人に遺産を渡せない
両親はすでに他界し,兄と妹が幼い頃から折り合いが悪く,長く絶縁状態。ただ,姉の娘は「おばさん!」と慕ってくれ,交流が続いていた。葬儀と納骨はその姪に頼み,「そんなに多くはないけど,遺産は全部あなたが受け取ってね」という口約束もしていた。本人は安心して旅立つことができたのだが,姪は一切の遺産を受け取ることができなかった。
「このケースでは姪との意思疎通ができていましたが,本人が『姪や甥が面倒をみてくれるだろう』と思い込んでいるだけというケースも少なくありません。世話になるつもりであれば,本人たちの意向を確認しておきましょう。また,感謝の気持ちをどう残すのかも,あわせて決めておきます。生前贈与や死亡保険金,遺産を渡すなどさまざまな方法がありますが,世話をしてくれた人が相続人でない場合は,遺言書を残すべきです。このケースのように,きょうだいが存命であれば,その子(姪・甥)は相続人となりません」
こうしたトラブルを避けるために,おひとりさまはどう備えればいいのだろうか? 方法としてあるのが「死後事務委任契約」と「遺言書」だ。
生きた痕跡を整理してもらう「死後事務委任契約」
「『死後事務委任契約』は亡くなったあと,遺産に関すること以外のすべての事務作業をおこなってもらう契約です。その人が生きてきたすべての痕跡をきれいに整理していきます。みなさんが思っている以上に,やるべきことは多岐にわたり,1年ぐらいかかることもあります」
たとえば,病院や施設で亡くなったら,葬儀社に連絡をして搬出の手配し,死亡診断書を受け取って死亡届の提出。その後,通夜,葬儀や納骨などの供養をおこなう。
病院や入所していた施設への支払いや生活用品や家財道具といった遺品の整理と処分のほか,健康保険や介護保険,各種納税の公的な手続きをし,電気やガス,水道,インターネット,クレジットカードの契約解除もある。退会手続きや不要な郵便物の送付停止手続き,SNSやメールアカウントの削除だってしなくてはならない。
「死後事務委任契約」を専門家と契約しておけば,こうした事務処理をすべてきれいにおこなってもらえる。でも,逆に契約してなかったおひとりさまの場合,どうなるのか?
「『財産』に関しては,たとえば家賃を回収して部屋を空けてもらいたい大家さんなど,利害関係のある人が家庭裁判所に申し立て,選ばれた相続財産管理人が相続財産や相続人を調査し,債権者への支払などをおこなったあと,残りを国へ帰属させます。しかし,死後事務委任契約の内容すべてを相続財産管理人がおこなえるわけではないため,おこなえなかった手続きに関しては,関係する人たちに迷惑をかけることになります」
おひとりさまは遺言書を残すべき
明石さんによると,死後事務委任契約が必要なのは,「親族がいるけれど頼れない人」と「親族がいない人」。一方で,「頼れる親族がいようといまいと,おひとりさまは遺言書もあわせて作成しておくべき」だと強調する。
「先ほどのケースのように,死後事務委任契約がなければこまごまとした手続きはおこなってもらえませんが,『財産をどうしたいのか』については遺言書を書いておかなければなりません。つまり,一方のみでは死後の手続きすべてを終わらせることができませんし,かかった費用の精算をどうするかといった問題もあります」
遺言書がない場合,相続人全員で遺産の分け方を決めなければならない。子どもがいないおひとりさまで,両親が亡くなっている場合は,きょうだい(きょうだいが亡くなっていたら,その子どもたちである姪や甥)が相続人となる。
かりに,相続人が姉と亡き兄の子(姪)の場合,亡くなった本人,父,母,亡き兄の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本を取得して,本人に子どもがいない,異父母きょうだいはいない,亡き兄の子は姪のみと証明しなければならない。素人には気が遠くなる作業だ。
そして,なんとか相続人が確定したら,ようやく財産相続についての話し合いがもたれるが,たとえば姉が高齢で認知症となれば後見人をつけなければない,ということになってしまう。
「遺言書があれば,戸籍謄本の取得は必要にせよ,スムーズに残したい人のところへ財産がわたります。本人は『何とかなる』と思っていても,『遺言書さえ書いておいてくれれば』といった言葉はよく聞きます。とはいえ,実際には不備のある遺言書が多いため,専門家に相談したうえで作成したほうがよいと思います」
終活の目的は人それぞれだろうが,忘れてはいけない目的の一つが「残された人が困らないため」だということ。遺言も認知症になってしまうと,意思能力がないとみなされ作ることはできないし,作成された遺言書も無効となってしまう可能性もあるという。
立つ鳥跡を濁さず――。そのように逝きたいと思うのであれば,老後への備えは進めておくほうがよさそうだ。
明石久美(あかし・ひさみ)/明石シニアコンサルティング代表。明石行政書士事務所代表,相続・終活コンサルタント,特定行政書士,ファイナンシャルプランナー(CFP/1級)。長く相続業務に携わり,終活の知識も豊富で,相談業務のほか,雑誌・週刊誌,新聞などメディア出演,講演会など幅広く活躍。著書に『障がいのある子が「親亡き後」に困らないために今できること』(PHP研究所),『読んで使えるあなたのエンディングノート』(水王舎)など。
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