悲喜こもごも

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“相続放棄”すべきか否か…!?

 以下は,現代ビジネス提供記事(曽根 惠子 氏による)のほぼほぼコピペです。

甥も姉も「相続放棄

 数ヵ月前に亡くなった兄の相続のことで相談に来られた,60代男性の太田さん(仮名)。兄・姉との3人きょうだいの末っ子で,兄は太田さんたちが生まれ育った実家で一人暮らしをしていました。兄には遠方に暮らすひとり息子がいますが,その息子,さらに太田さんの姉が相続放棄したため,相続権が太田さんに回ってきたのです。

 亡くなった兄の財産は,地方の実家の土地と築古の自宅,そして預金約150万円。多少のプラスが見込める状況にもかかわらず,兄の息子が相続放棄したのには理由がありました。

 実は太田さんの兄は難病を患って入退院を繰り返し,一時期は失職して生活費に困窮,クレジット会社に借金をしていたこともあったのです。本人は「すべて返済ずみ」といっていましたが……。

 太田さんが調べたところ,土地には抵当権がついていないことが確認できましたので,銀行などの金融機関からお金を借りていることはなさそうです。けれども,不動産と預金を相続したあとに,万一,消費者金融からの借入が判明したらと思うと,相続していいものか,迷うということでした。

 はたして太田さんは,亡くなった兄の借金を押し付けられてしまうのでしょうか?

 このようなケースでとりうる対策の一つが,「限定承認」の手続きです。

自分も相続放棄したいが…

 限定承認というのは,相続した財産の分までは借入返済するが,それ以上の負債については責任は生じないという制度です。

 限定承認をする場合には,財産の内容を確認したうえで,借入金があるか否かも調べる必要があります。

 抵当権の設定がなく,金融機関や消費者金融などの借用書などが見当たらない場合,隠れた負債はないと想定されます。そもそも回収する気がある債権者がいるとすれば,生前から返済を促す通知などを発行しているはずです。

 また,限定承認をした場合,借入金の返済を求められても,支払いは相続した範囲までとなり,持ち出しにはなりません。

 しかし,面倒ごとを抱える可能性が残るなら,できれば自分も相続放棄してしまいたいというのが太田さんの本音でした。

相続放棄しても,不動産には「管理責任」が

 さらに,太田さんにはもうひとつ懸念がありました。兄が所有していた実家の不動産をどうするかです。

 不動産に関しては,相続放棄だけでは対処できない問題があります。

 実は不動産は,国に移管されるまでは相続人に管理責任があるのです。

 民法940条では,「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」と定められており,相続放棄が受理されても,弁護士に依頼して財産管理人をたてない限り,管理責任が残るとされています。

 つまり ,借金だけなら相続放棄は簡単ですが,不動産がある場合,相続放棄の申請が受付されたとしても,相続人に管理責任が残るということです。さらに地方の不動産は国が引き取ってくれないこともあるため,いったん相続し,売却するほうが負担は軽減されます。

いらない土地は国が引き取ってくれる?

 不動産の相続について,最近大きな制度改正の動きがありました。

 令和3年4月21日,「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)が成立,同月28日公布されたのです。

 このふたつの法律は,所有者不明土地の増加等の社会経済情勢の変化に鑑み,所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」の両面から,総合的に民事基本法制の見直しを行うものです(法務省所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し[民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法])。

 施行後は相続登記,つまり相続の際に不動産の名義を変更する手続きが義務化され,3年以内に手続きをしないと10万円の過料(罰金)が科されるようになります。

 その一方で,相続した不要な土地を手放し,国に引き取ってもらう(国庫に帰属させる)制度も始まります。法務省が,令和5年4月27日から「相続地国庫帰属制度」をスタートさせると発表しました。そうなれば,太田さんのようなケースで,保有したくない土地を相続して相続税や固定資産税を払い続けなければならないといった事態は回避できるかもしれません。

 ただし制度開始後も,不要な土地を国に引き取ってもらうには,10年分の管理費と審査手数料を収め,以下の条件を満たす必要があります。

  • 更地であること(建物があれば相続人の負担で解体)

  • 抵当権が設定されていないこと

  • 境界争いがないこと

  • 土壌汚染がないこと

 つまり現時点では,建物もトラブルもない,まっさらな土地にしないと,国は引き取ってくれないということです。

結局,相続したほうがいい

 借金には時効がありますし,前述したとおり,回収の意思がある債権者がいればとっくに動いているはずですから,現時点で判明していない兄の借金が出てくる可能性は低いでしょう。

 また前述した「土地所有権の国庫帰属制度」の運用はまだ先であり,現状では相続放棄しても実家の管理責任は太田さんが負わされてしまいます。

 こうしたもろもろのことを考えると,実家は太田さんが相続し,建物を解体・売却するのがいちばんであるとアドバイスしました。いまなら手元に多少なりともお金が残せる可能性があるからです。

 太田さんは筆者の提案に納得され,相続手続きをすることで話を進めています。

お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>