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年金を「75歳」から繰り下げ受給すると,逆に「大損」?

 以下は,現代ビジネス提供記事(森永 卓郎(経済アナリスト))のほぼほぼコピペです。

 そう遠くない将来,夫婦の年金受給額が「月額13万円」にまで減る――経済アナリストの森永卓郎氏はこのように予測します。そうなった場合,すでにカツカツな高齢者はどうやって生活していけばいいのでしょうか? 向こう30年間活きる「お金の知恵」をまとめた角川新書『長生き地獄』から,年金繰り下げ受給にまつわる「見えないワナ」について解説します。

 繰り下げ受給の「落とし穴」

 公的年金の繰り下げ受給の上限年齢を70歳から75歳に引き上げることを含む年金制度改革関連法が国会で成立したことにより,2022年4月から公的年金の受給開始を75歳に繰り下げることが可能になった。  

 本来の65歳受給開始を70歳から受給に繰り延べれば,年金月額は42%増加し,75歳受給開始に繰り延べれば,84%も増えることになる。  

 つまり,年金の受給開始時期を10年間遅らせれば,年金月額が13万円まで下がった時代でも,受給額が84%増えるので,夫婦の年金月額を23万9200円にまで増やすことができるのだ。  

 しかし,このやり方には,思わぬ落とし穴があることが,年金制度改革関連法案の国会審議で明らかになった。日本共産党の宮本徹議員が,75歳受給を選んだ場合,手取りで考えると大きな損失が発生することを明らかにして,政府を追及したのだ。  

 政府の説明は,平均余命で亡くなれば,何歳から受給を開始しても損得はないというものだった。ところが,75歳受給開始を選ぶと,年金が84%増えるために,負担する税金や社会保険料が大きく増えてしまうのだ。  

 例えば,65歳から月額15万円の年金を受給した場合の税・社会保険料負担は月額5800円だが,75歳から84%増の27.6万円の年金を受け取ると,負担が月額3.6万円と6倍以上に増えてしまうという。税も社会保険料も,所得が増えると累進的に負担が増えるからだ。平均余命の87歳まで生きるとすると,生涯で受け取る年金の手取り収入は,総額で370万円も減ってしまうのだ。

実は,手取りが400万円以上も減る

 同様のことを今回の設定で,再検証してみよう。話が複雑になるので,ここでは年金受給者に妻はおらず,単身世帯だと仮定している。  

 まずは年金の給付水準が現状通りだとする。現状は夫の厚生年金が月額14万6162円だから,年収では175万4000円となる。住民税と国民健康保険の保険料は,東京都世田谷区のものを使って計算すると,税・社会保険料負担は年間で17万1000円だ。  

 一方,年金受給開始を75歳からにすると,年金収入は322万7000円と,147万3000円増える。しかし,税金と社会保険の負担が52万7000円と3倍以上に増えるから,手取りは111万7000円増にとどまってしまうのだ。  

 それでも受給開始年齢の繰り下げで,手取り収入が大きく増えるのだから,よいのではないかと思われるかもしれない。しかし,10年間の繰り下げを選ぶということは,65歳から75歳まで一切年金を受け取らないということだ。  

 65歳男性の平均余命は19.93年だから,65歳受給開始なら20年間,75歳受給開始だと10年間が平均的な年金受給期間となる。そこで,生涯の年金手取り収入を計算すると,65歳受給開始の場合は3166万円であるのに対して,75歳受給開始の場合は2700万円と,466万円も生涯の年金手取り額が減ってしまうのだ。  

 このことの原因として,分かりやすいのは,表に示した税社保比率の欄の数字だ。これは,年収に占める税金と社会保険料負担の比率だが,65歳受給開始を選べば9.7%にとどまるのに対して,75歳受給開始を選ぶと16.3%と,負担率が7割も高くなってしまうのだ。

 「年金13万円時代」になった場合

 一方,30年後に夫婦の年金月額が13万円となる時代は,夫の年金月額は9万3000円となる。年収で111万6000円だから,所得税や住民税は一切かからない。税・社会保険料負担比率も8.0%にとどまる。  

 そして,75歳から受給開始を選んでも,税・社会保険料負担比率は11.7%と,それほど高いレベルにはならない。それでも,生涯の年金手取り額は,65歳受給開始が2054万円に対して75歳受給開始は1814万円となるから,年金受給開始を10年繰り下げると240万円減少してしまう。  

 また表では,健康保険料を一律に国民健康保険の保険料で計算しているが,実際には,75歳からは,後期高齢者医療制度が適用される。後期高齢者医療制度のほうが,所得による累進性が大きい。  

 後期高齢者医療制度では,将来年金の111万6000円の場合のように,課税所得がゼロとなる場合は,後期高齢者医療の保険料の所得割はかからず,年額4万4100円の均等割も最大の7割軽減が適用される(東京都世田谷区の場合)。そのため,年間の医療保険負担はたった1万3200円で済むのだ。  

 ところが75歳からの年金受給開始を選ぶと,年金月額が84%増え,所得税と住民税がかかってくる。医療保険の所得割もかかるようになり,減免もなくなるから,医療保険の負担は7倍近くになってしまうのだ。

最大の問題は「住民税」

 しかも問題は,税金や社会保険料だけではない。一番大きな問題は,住民税が非課税でなくなると,さまざまな負担が降りかかってくるということだ。例えば,住民税が非課税だと,介護保険料が軽減されたり,高額療養費の自己負担上限が低くなったり,自治体からのさまざまな補助の対象になる。住民税非課税世帯ではなくなった途端にこれらのメリットは消失してしまうのだ。  

 現行の平均的な厚生年金の受給額は175万円だから,単身者の場合,公的年金等控除の110万円と住民税の基礎控除の43万円,社会保険料控除15万8000円の合計168万8000円を超えるので,年金だけで住民税非課税ではなくなってしまう。一方,扶養配偶者がいる場合は,扶養控除の33万円が加わるので,住民税は非課税になる。  

 ただ厳密に言うと,住民税が非課税となる年金収入の年額は,居住する自治体によって微妙に異なるが,東京23区内の場合,単身者は155万円以下,扶養配偶者がいる場合は211万円以下となっている。そのため,夫が元サラリーマンの場合でも,国民年金の配偶者がいる場合は,住民税非課税の地位を手にできるのだ。  

 さらに,年金収入が住民税非課税の水準を超えそうな人にも手はある。年金を繰り上げ受給すればよいのだ。受け取り開始を65歳より前に早める「繰り上げ受給」の場合,2022年4月からは,減額率が1カ月当たり0.4%に圧縮される(それまでは,0.5%)。  

 だから175万円の厚生年金を受け取る予定の単身者が,住民税非課税になろうと思ったら,年金を30カ月,つまり2年6カ月早めに受給すればよいのだ。62歳で引退すれば,体力のあるうちに「老後」が手に入るから,人生を謳歌する時間を延ばすことができる。私は重要な選択肢だと思う。  

 ただ,もちろん問題はある。まず,年金受給額が12.0%減の状態が生涯続くということだ。しかも,今後の年金水準の減少を考えると,そこからさらに4割程度減の年金額が想定される。最終的に夫婦で11万3000円の年金で暮らせる態勢を整えないといけない。不可能ではないと思うが,ライフスタイルの大きな転換が必要だ。  

 また,1961年4月1日までに生まれた人には特別支給の厚生年金が支給されるから,65歳になるまでは,年金受給開始を繰り上げても,必ずしも住民税非課税とはならない。 

 さらに公的年金等控除の最低保障額も,65歳未満の場合は,60万円しかないから,年金の繰り上げ請求をしたとしても,65歳までは税金や社会保険料を払わないといけないのだ。  ただ,長い人生を考えれば,65歳までの数年間の負担は我慢できるのではないだろうか。

お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>