悲喜こもごも

読むと得も損もあり!

ここがヘンだよマイナンバーカード(現役自治体職員より)

 以下は,文春オンライン提供記事(葉上 太郎 氏による)のほぼほぼコピペです。最後に≪私感≫を付け加えました。

 様々な問題が噴出しているマイナンバーカード。目下のトラブルは公金受取口座の紐づけやマイナポイントの付与,マイナ保険証など,後から加わった機能やサービスが多い。このため,政府が無理をしてカードの交付率を上げようとしたせいだという批判が強い。だが,カード自体の使い勝手や利便性はどうなのか。普及率が悪かったのは,それなりの理由があるからではないか。日常的にマイナンバーカードに触れる仕事をしている市区町村の窓口職員に聞いて回ると,多くの課題があることが分かった。

 「マイナンバーカードを使ってオンラインで引っ越しの申請をすれば,もうそれだけで全ての手続きが終わってしまうようなイメージがありませんか。大間違いです。むしろマイナンバーカードがあることで,面倒になっている面もあるのです」。ある市の職員がため息混じりに言う。  

 マイナンバーカードには,顔写真や「基本4情報」(住民票に登録された氏名・住所・生年月日・性別)が印刷されているほか,カードに埋め込まれたICチップにも記録されている。  

 引っ越しや結婚をした時には,市区町村の窓口で手続きをしなければならない。  

 職員が住民基本台帳の内容を変更したあと,マイナンバーカードのICチップに記録された情報を更新し,カード表面の追記欄にも変更事項と日付を印字して公印を押す。ところが,この追記欄がかなり小さい。

運転免許証の追記欄は裏にあり,比較的広く場所が取られています。しかし,マイナンバーカードは表にあります。顔写真や『基本4情報』などが印刷されているので,わずかなスペースしかありません」と,前出の市職員が話す。  

どれだけ小さいのか。計測してみると,縦が1.6cm,横が5cm強だった。

「小さすぎるスペース」がもたらす“皮肉”

 縦1.6cmの間には4mm間隔で罫線が引かれていて,4行分の変更事項が追記できるようになっている。

「ここに新しい住所や,結婚後の氏名を記載します。私が勤務している市役所では専用のプリンターを購入しています。自治体によっては手書きのところもあり,あの小さい欄に書くだけでも大変なのに,もし間違えたらどうするのだろうと,よそのことながら心配になります。その点,プリンターは便利ですが,普通の印刷に使えるわけではありません」(同前)    

マンション名などが入った住居表示だと,追記欄に書き込む文字数がかなり多くなる。 「なるべく1行に収めるようにしているのですけれど,難しいこともあります。結婚で姓が変わった場合も,それだけで1行分を使わざるを得ません」(同前)  

 4mmの間に2行印字できるプリンターも売り出されているが,かなり文字が小さい。  こうして職員が「小さく追記」するには理由がある。

「追記欄の4行分が満載になったら,マイナンバーカードを再交付しなければならないのです。運転免許証のように追記欄にシールを張って上書きするようにはなっていません。再交付は無料ではあるのですが,顔写真を改めて撮影するなどの手間がかかります。交付までの日数もかかる。運転免許センターで即日交付される運転免許証とはかなり違います」(同前)   

 そうなるのを避けようとしているのに,「がっかりすることもある」という。

「追記した事項ごとに公印を押しています。小さい公印がないのか,2行にわたって押している自治体もあり,あ~あ判子だけで2行も取っちゃってと思います」(同前)  

 河野太郎・デジタル改革担当大臣は「判子廃止」を訴えたこともあるのに皮肉なことである。

手続きをさらに煩雑にさせるパスワードの存在

 転勤族はマイナンバーカードの有効期限の10年の間に必ず再交付が発生してしまいそうだ。話を聞いた職員の中にも「私が結婚して住所や姓が変わった時には,追記の記載が4行に収まらず,カードが再交付になってしまいました」と話す人がいた。  

 追記欄の問題はこれだけにとどまらない。結婚だけでなく,離婚で姓が変わった場合にも記載され,見られたら相手に分かってしまう。運転免許証も同じように記載されるが,こちらは追記欄が裏にある。

「離婚歴を知られたくないし,旧姓を見るのも嫌なので,マイナンバーカードを作り直したい」という人もいるようだ。自己都合の再交付には手数料が発生し,カードの再交付が800円。電子証明書の発行手数料が200円加わるので,合計1000円もかかる。  

 引っ越しの手続きで多いのは,マイナンバーカードがどこにあるか分からなくなってしまった人だ。

「運転免許証と違って携帯せずにしまい込む人が多いし,それだけ日常的に使われていない証拠でしょう」と,ある自治体職員が分析する。「希望者には再交付しますが,手数料がかかるので『もういいや』と言う人もいます」。  

 パスワードの存在も手続きを煩雑にしている。  

 マイナンバーカードには通常,2種類のパスワードを設定しなければならない。カードのICチップに“格納”した2種類の電子証明書などに必要なのだ。  

 そのうちの一つ,「利用者証明用」の電子証明書は,政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」にログインする時などに使う。ログインした「マイナポータル」でオンライン申請する場合は,もう一つの「署名用」の電子証明書を使用する。  

 これら電子証明書を使う際には,それぞれ異なったパスワードを入力しなければならない。「利用者証明用」は4桁の数字で,連続3回間違えるとロックされる。「署名用」は英字と数字を組み合わせた6~16文字 で,連続5回間違えるとロックされる。

 電子証明書は一度“格納”するとずっと使えるというわけではない。

「だいたい2~3割の人が忘れています」

 引っ越しや結婚で住民登録が変わると,2種類のうち「署名用」の6~16文字は使えなくなる。証明書に基本4情報が含まれる形になっており,氏名や住所が一つでも変われば,自動的に失効してしまう。  

 このため,転居(転入)届や婚姻届を出した市区町村の窓口で,新しい「署名用」の電子証明書を“格納”し直さなければならない。「なんで住所を移すたびに,電子証明書が切れてしまうのか。わざわざ付け直しの作業が必要になって,窓口の手続き時間が長くなり,住民を待たせてしまう」と話す職員もいる。  

 この「付け直し」には「署名用」の6~16文字のパスワード入力が必要になる。なのに「だいたい2~3割の人が忘れています」と,ある市の職員は嘆く。「最初の設定時に誕生日はダメ,他の人が分かりそうな番号も避けてほしいと言われ,真面目な人は少しでも分かりにくくしようと16文字いっぱいに設定してしまいます。覚えておけと言われても無理です」。  パスワードが分からないと,再設定が必要になり,わざわざ申請書に書いてもらうところから始めなければならない。  

 こうして作業が積み重なっていく。「手続きを簡略化するためのカードでもあるのに,本末転倒です」と話す職員もいた。  

 そもそもマイナンバーカードを使ったからといって,手書きの申請書がなくなるわけではない。

「窓口で書いてもらう事項は結構あります。例えば,児童手当の申請書類はA4の用紙にびっしり情報を書いていただきます。印鑑登録の申請なども加わります。『マイナンバーカードを使ったのに,なぜこんなに時間がかかるのか』と怒り出す人もいます」と,職員の一人は言う。  

 結局,これらもろもろの作業を総合すると,マイナンバーカードの導入で手続きにかかる時間は短縮できるようになったのか。

「むしろ時間がかかるようになりました」

「マイナポータルを使って申し込めば,窓口に来庁する日にちを予約でき,私達も事前に書類を準備して,氏名や住所を入力しておくので,住民の皆さんの省力化に結びついている面はあります。しかし,実際には申請書に書いてもらう時間や,カードの内容更新も含めると微妙ですね。以前とそれほど変わらないような気もします。ただ,窓口で受け付けるまでの時間は早くなったので,混雑は緩和されたように感じます」と,住民課の職員が話していた。  

 出先の支所では少し事情が違うようだ。「むしろ時間がかるようになりました」と話す職員もいた。どういうことなのか。

「支所の窓口では,まずマイナンバーカードを預かって,転出に関する情報を出力して印刷します。これを確認審査して,本庁の住民課にデータをファックスします。住民基本台帳に登録された内容の変更は本庁でしかできないのです。この作業が終わると,今度は支所の窓口でマイナンバーカードの中身の更新や追記欄の印字を始めます。そんなことは住民課で住民登録を変更している間にできるじゃないかと思われるかもしれませんが,登録作業が終わってからでないと,マイナンバーカード関連の変更はできないのです。カードの更新作業はスムーズにいけば15~20分で済みますが,手続きに来た人がパスワードを忘れていたら,初期化から始めるので一定の時間がプラスになります」  

 これは通常時期の話だ。春の異動時期にはさらに時間がかかる。

「本庁の住民課が混雑していて,住民基本台帳の変更作業が1時間待ちとかになってしまう場合もあります。そんなに長い時間,支所で待っていただくわけにはいきません。マイナンバーカードの中身の変更や追記欄の記載は『また,後日にしましょう』ということになります。『えーっ,また来るの』と言われることもありますが,どうにもなりません。マイナンバーカードは支所で預かれないので,お返しします。こういった時,転入(転居)届を出してから90日以内にマイナンバーカードの変更手続きをしないと,カードが失効してしまいます。そうした人が実際に手続きに来たかどうかは確認していないので,もしかすると住民基本台帳の住所とマイナンバーカードの住所が異なる人がいるかもしれません。もちろんその場合,カードを使った申請などはできませんが」(同前) 「転勤が多く,マイナンバーカードの更新に時間がかかるのを知っている公務員の中には,『紙で転入届を出す』と用紙を求める人もいます」と話す職員もいた。  

 一方,マイナンバーカードの導入で便利になった部分もある。

 引っ越しの場合,マイナポータルで手続きをすれば,住んでいた市区町村の窓口に転出届を出さずに済む。以前は紙で転出届を出し,転出証明をもらって,新しく住む自治体の窓口に提出しなければならなかったが,転入先だけの手続きでよくなった。

「これまでは,転入の手続きをしようとして『転出届を出すのを忘れていた』と青ざめる人もいました。住んでいた市区町村に帰って転出届を出すか,郵送で転出届を出すかしたうえで,転出証明を持ってきてもらわなければなりません。遠方だと大変です。これが必要なくなったのは大きいでしょうね」と,窓口担当の職員は話す。

「税の電子申告では,ものすごく手続きが楽になりました。また,勤務先が自宅と違う自治体なので,マイナンバーカードを使うと職場の近くのコンビニエンスストア住民票の写しが取れるようになりました。開庁時間に関係なく交付されるので助かっています。使いこなせば便利」と話す元市職員もいた。  

 コンビニで住民票の写しなどの交付を受ける場合,市区町村の窓口より手数料が安い場合がある。マイナンバーカードの普及促進策で,政府が補助金を出しているのだ。

「手数料が10円という自治体もあります。無料にできないのは,コンビニに設置されている複合機はお金を入れないと発行できないからです。しかし,いつまで続けられるでしょうか。政府はこれからもずっと補助し続けるとは思えません」と,ある市の職員が指摘する。  期限を定めて「交付手数料割引キャンペーン」「窓口より○円お得」などと宣伝している市もある。  

 課題がなくはない。「高齢者がコンビニで交付申請できるでしょうか。複合機の操作は店員に教えてもらいながらになると思いますが,忙しくしている店では気が引けるし,100円ぐらい安いだけなら市役所や支所の窓口で申請するのではないでしょうか」と,職員の一人は話していた。  

 こうして窓口に行かずに申請や交付が可能になったものの,職員の間では「実際には来庁を促す仕組みばかり導入されている」という声が根強い。

忘れられているのはマイナンバーカードには有効期限があること

 オンライン申請と言いつつ,必ず窓口で手続きが求められる転入(転居)届はそのうちの一つだろう。政府は住民基本台帳の記載が各種行政事務の基礎になっていることから,「転入届出者の実在性・本人性を厳格に確認することが不可欠であり,対面で手続を行う必要がある」と説明している。  

 意外と知られていないというか,忘れられているのは,マイナンバーカードには有効期限があることだ。カードそのものは発行日から10回目の誕生日まで(発行時に未成年だった人は5回目),ICチップに“格納”されている電子証明書は5回目の誕生日まで。そのたびに窓口で手続きが必要になる。  

 この時にパスワードを忘れていたら,再設定しなければならず,カードがどこにあるか分からなくなったという場合は,前出のように1000円の手数料が要る。無料での再交付は「返納」が条件だ。

「一般の住民が市役所を訪れる機会はどれくらいあるでしょう。何年も行っていないという人が多いのではないでしょうか。にもかかわらず,マイナンバーカードの所持者は全員が5年ごとに窓口で手続きをしなければなりません。運転免許証保有者数より多いのに,これほどの来庁を求める事業は前代未聞です」と,大きな市の職員が言う職員が言う。  

 ただ,「今回はマイナポイントをもらうために申請したけど,もうもらえないなら更新しない」と話す人もいるようだ。  

 こうした人がいる現実に,ある市の職員が疑問を呈する。

 全ての問題点は「必然性がないままカードを作ってしまったこと」

「政府は健康保険証を廃止して,マイナンバーカードの取得を実質的に強制しようとしていますが,ならばマイナ保険証以外のカードの使い道といったら,どんなものがあるでしょう」  

 窓口では「このカードは何に使うのか」と尋ねる住民もいるが,「答えに困ることもある」と本音を漏らす職員もいる。  

 デジタル政策に詳しい職員の一人は,「政府は本来の目的を見失っている」と,鋭く批判する。 「国民1人1人に付与された12桁の個人番号(マイナンバー)で何ができるか。これが政策の主目的だったはずです。まずやるべきことは,12桁のマインナンバーを様々な制度に紐づけて,社会を便利にしていくことでした。  

 ところが,政府は12桁のマイナンバーを活用する制度設計をしっかりとしないまま,カードを導入してしまいました。必然性がないままカードを作ったのです。カードの交付率を上げようとして2万円のマイナポイントまで付与しました。カードを作ったら何が得なのか。現状としては生活が便利になり楽になるとは認識されておらず,ポイントをもらえるという程度になっています。カードを日々使っていく場面がないのに,パスワードなんて覚えていられるはずがありません。  

 カードを作らせるよりも,12桁のマイナンバーで何をするかが先。逆転しています。マイナンバーで便利になったから,カードも作ろうと思われるようにしなければならなかったのに……。これがパスワードが忘れられる理由です。今のままならいつまで経っても忘れられるでしょう」

「政府が人々の考えや意識,市区町村の現場の声を把握しようとせず,自分達が思ったままやろうとするから,人々の暮らしに寄り添った制度にならないのです」と力を込める職員もいた。

≪文中にもあるとおりカードを作ったからと言って「申請を簡略化」できるわけではなく,これまでどおり申請は必要なのです。例えば,人が亡くなった場合の手続き(細かいものまで含めると数十件の申請数)を,これまでどおり配偶者はしなければなりません。私の知る限り,そのうちマイナンバーを記載するのは「年金」関連の申請のみ。これが「日本国のデジタル化」の代表格「マイナンバーカード」の実情です。さらに,有効期限10年,5年ごとの書換えに至っては……。国民はもとより自治体(具体的手続きの引き受け手)にとってその労力たるや想像を絶します。カード発行とICチップ読み関連を担う会社だけが税金によって賄われる代金を奪っていってしまう構図。何とかなりませんかねぇ≫

お読み頂き,有り難うございました<(_ _)>