悲喜こもごも

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コロナ禍の「労災保険」

 以下の内容は,日本版「FPジャーナル」10月号を再編集したものです。

1 労災保険の概要

 労災保険は,労働者の業務上または通勤による負傷,疾病,傷害,死亡等に対して必要な保険給付を行うことを目的とする制度です。会社等に雇用されている労働者,アルバイトやパートタイマー等の雇用形態に関係なく,すべてが対象です。保険料は全額事業主が負担することになっています。

 対象となる災害は「業務災害」と「通勤災害」です。前者は業務に起因するもので,労働関係(業務遂行)が必要です。後者は労災保険法の要件を充たす必要があります。

2 療養(補償)等給付について

 業務・通勤が原因で傷病等にかかり療養を必要とする場合に支給されます。傷病が治癒するまで給付されます。

 治癒とは,治ったときを指しますが,完全回復状態のみではなく,症状が安定し,医療を施してもその効果が期待できない状態(症状固定)も含まれます。

 治癒(症状固定)と認定されたときに,何らかの障害が残る場合,障害等級(第1~4級)に該当すると認定されると,その程度に応じて「障害(補償)等給付」が支給されます。

 なお,働くことができず,賃金を受けていない場合には,傷病発生の第4日目から休業(補償)等給付が支給されます。その要件は,①業務上の理由または通勤による傷病の療養であり,②そのために働くことができず,③賃金を受けていないをすべて満たす必要があります。

3 複数の会社等で働く場合(2020年9月1日施行)

(1)賃金額の合算

 これまでは労働災害が起きた会社等の賃金額で給付基礎日額を算定していましたが,すべての会社等の賃金額を合算した額で算定されることになりました。

(2)負荷の総合的評価

 一つの会社における業務上の負荷のみでは労災認定されない場合は,雇用されているすべての会社等での業務上の負荷が総合的に評価され,認定の判断が行われます。

4 テレワークにおける労災補償

(1)可の例:業務上

 自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが,トイレに行くため作業場所を離席した後,作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した。

(2)不可の例:業務以外が原因

 自宅のベランダで洗濯物を取り込んだり,個人宛の郵便物を受け取ったりする際に転んでけがをした。

(3)新型コロナに感染

 医療従事者等でない労働者でも,感染経路が判明し,感染が業務によるものであれば,給付の対象になります。また,感染経路が判明しない場合であっても,労基署において個別の事案ごとに判断します。

 

5 労災保険給付請求の手続(例:療養(補償)等給付)

 療養(補償)等給付には,「療養の給付」と「療養の費用の支給」があります。

前者は次のような場合です。指定医療機関等での治療や薬剤の支給は,無料で受けられます。事業主の証明を受け,指定医療機関等を経由して所轄の労基署長に請求書を提出します。

 後者は次のような場合です。近くに指定医療機関等がないなどの理由により,指定医療機関等以外で療養を受けた場合は,その療養にかかった費用が支給されます。所轄の労基署長に直接請求します。

 なお,前者は現物支給ですから,請求権の時効は問題になりませんが,後者は費用の支出が確定した日の翌日から2年を経過すると,時効により請求権が消滅します。

 

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