高齢者が亡くなった場合,残された家族はその整理に多くの労力と費用を要することになります。さらに,認知症等を発症していれば,その度合いは深刻さを増すことになります。
健康なうちに,実践すべき片付け(2)成年後見制度と民事信託
今回は,認知症の発症前の手だてを,ご紹介します。
成年後見制度
認知症等で判断能力が不十分になった場合,当人が不利益を被らないように「援助ずる人=後見人」を決めておく法的制度です。
法定後見と任意後見があります。
前者は,既に判断能力が不十分になっている方を支援する後見人を,裁判所が選任する制度です。
後者は,自身が事前に,任意後見となる受任者に,生活・身上監護及び財産に関する事務を委任し,代理権付与の契約を締結するものです。契約内容はここに定めることができます。ただし,代理権のため,直接労働を提供する行為は除かれます。
任意後見契約の代理権の内容
①医療行為に関する契約及びその支払い
②不動産を含む財産管理・保存・処分
③自己が居住する賃貸住宅の契約に関すること
④金融機関・保険に関すること
⑤年金・福祉手当等の受領に関すること
⑥生活に必要な物品の購入,光熱費等の支払い
⑦介護施設,介護サービスに関する契約
⑧遺産分割協議
⑨重要書類・印鑑・通帳等の保管
任意後見契約の留意点
判断能力が衰える前に,財産管理委任契約と任意後見契約の二つの契約を締結します。
前者については注意を要するので説明します。判断能力が衰えるまで,委任者自身が財産等の管理を行い,受任者は,財産管理の代理人ですが,その他については使者(委任者の意思によってのみ行為する者)という契約になります。そして,委任者の能力が衰えた段階で,失効します。
と同時に,後者の任意後見契約に切り替わります。ただし,自動的にではなく,裁判所に任意後見人を監督する任意後見監督人の選任を申し立て,任意後見監督人が選任されて初めて契約の効力が生じることになります。その後,任意後見監督人の下,任意後見人が契約で定められた特定の行為ができるようになります。
民事信託
受託者が委託者の財産管理をする点では,任意後見に似ていますが,権限の開始時期と財産管理の自由度や範囲が異なります。
開始時期
任意後見契約は,任意後見監督人の選任をまって始まりますが,開始時期を自由に定めることができます。もちろん,締結時には委託者に正常な判断能力が必要ですが。
範囲
契約内容で設定した「信託の目的」に基づき,受託者はその目的の範囲内で自由に財産を扱うことができます。
例えば,任意後見では,被後見人の財産を増やす目的の投資などは認められないが,民事信託では,契約の中にその事項が含まれていれば可能です。
したがって,民事信託では,積極的な資産活用ができることになります。
ただし,任意後見制度に認められている身上監護はできません。
最後までお読み頂き,有り難うございました<(_ _)>